アイヌの伝統住居・チセに泊まってみた!〜体験を通して学ぶ〜
北海道の大自然の中にひっそりと佇む、木と草のぬくもりに包まれた家。
今回は、アイヌの伝統的住居「チセ」に実際に泊まる体験を通じて、アイヌ文化の暮らしと知恵を深く感じる旅をご紹介します。(阿寒湖アイヌコタンでは、“シマフクロウ”の彫像が出迎えてくれます)
第1章 アイヌの伝統住居・チセとは?
チセとは、アイヌ語で「家・住居」を意味する言葉で、北海道やサハリンなど寒冷地に適した木造の住まいです。屋根はササやヨシなどの植物を用いた茅葺きで、壁はシナノキやハルニレなどを編んで作られます。風を防ぎつつ湿気を逃がす構造で、冬でも暖かく過ごせる工夫が凝らされています。
内部は中央に囲炉裏(アペ)を設け、食事や団らんの場として機能します。神聖な方向とされる東側にはカムイ(神)を迎える空間があり、アイヌの精神文化が暮らしの中に根付いていることがうかがえます。
また、チセは単なる建物ではなく、自然との共生を象徴する存在でもあります。建築に使う材料は森から採取し、必要以上の伐採を避けるなど、環境に配慮した暮らしの姿勢が見て取れます。アイヌの世界観の一端に触れられる住空間、それがチセなのです。
一般的な「チセ」の内部

左側が囲炉裏(いろり)、右側が寝室を兼ねた調度品などを置く場所
第2章 実際にチセに泊まってみた!
今回体験したのは、阿寒湖畔のアイヌコタンにある再現型のチセ。観光客向けに宿泊体験ができる施設として整備されており、現代の衛生設備を備えながら、伝統的な構造を忠実に再現しています。内部は木の香りが漂い、足を踏み入れた瞬間から“静けさ”に包まれます。
チセの中は驚くほど静かで、風や木のきしむ音までもが心に染み渡るよう。囲炉裏に火が入ると、木の香ばしい香りが広がり、空間に温かみが生まれます。布団は床に直接敷かれ、夜になると囲炉裏の火を囲んで、語り部からユーカラ(叙事詩)を聞く時間が始まります。
まさに、現代とは異なる時間が流れる場所。焚き火の揺らめきと語りの声に身を委ねながら、アイヌの人々が育んできた暮らしの知恵に、肌で触れることができます。
朝は鳥のさえずりとともに目を覚まし、静けさの中でゆっくりと一日が始まります。目の前に広がる阿寒湖の景色はまさに絶景。四季折々の風景がチセの空間と溶け合い、五感が研ぎ澄まされる感覚を味わえます。
「アイヌの住居・チセ」に泊まった旅行者の感想
🌿感想① 「製作者として、創造の原点に出会えた」
50代・男性・Web製作
アイヌ刺繍の意味や模様の由来を教えてもらいながら、自分の手でチクチク縫っていく作業はとても心が落ち着きました。宿泊したチセの内装にも、自然の色や形を大切にするアイヌの美学があちこちに感じられて、感性が研ぎ澄まされるような時間でした。都会で仕事に追われていた自分にとって、すごく大切な“原点回帰”の旅になりました。
🧳感想② 「思ったより快適!だけど文化はしっかり体感」
60代・夫婦旅
正直、昔の住居に泊まるのは不便なのでは?と思っていたのですが、寝具やトイレは現代的に整備されていて、安心して泊まれました。でも、囲炉裏の火や木の香り、耳を澄ませば聞こえる風の音など、昔ながらの暮らしのリズムはしっかり感じられました。体験というよりも「滞在する文化」として、とても意味のある時間を過ごせました。
第3章 体験できるアクティビティと学び
チセに宿泊するだけでなく、さまざまな体験プログラムも組み合わされています。以下のような活動を通じて、より深く文化を理解できます。
- アイヌの伝統料理体験(チタタプ、オハウづくり)
- アイヌ刺繍のワークショップ
- ムックリやトンコリなど民族楽器の演奏体験
- チセの建築方法を学ぶクラフト体験
- アイヌ語のミニ講座
これらの体験では、ただ“見る”のではなく、“作る・聞く・話す”といった体験を通じて、アイヌ文化がどれほど多層的で豊かなものかを実感できます。特に、料理や楽器体験は子どもから大人まで楽しめる内容で、家族旅行にもぴったりです。
また、語り部によるユーカラの朗読会では、物語の内容だけでなく、語りのリズムや間の取り方に、古代から続く口承文化の魅力を感じることができます。こうした“声の文化”も、宿泊体験を通じて触れる大切な要素のひとつです。
「チセ」を知ることを通して、アイヌの文化や暮らしを知ることが大切です


ムックリを演奏するアイヌ女性のモニュメント(左)と実際の“ムックリ”


アイヌ舞踊戦闘のシーン(左)と独特な文様に心惹かれるアイヌ細工
第4章 アクセス方法と宿泊情報
今回紹介したチセ宿泊体験は、【阿寒湖アイヌコタン】が拠点です。アクセス方法は以下のとおりです。
- 釧路空港から車で約1時間20分(レンタカー利用がおすすめ)
- JR釧路駅からバスで阿寒湖温泉まで約2時間10分
宿泊施設は、チセ体験宿泊プランを持つ阿寒湖温泉のロッジや民宿があり、基本的に1泊2食付きで15,000円~20,000円前後が相場です。スタッフはアイヌ文化に精通したガイドが多く、安心して滞在できます。
宿泊には事前予約が必要で、特に観光シーズン(6月~9月)は混み合うため、2~3ヶ月前からの計画がおすすめです。また、冬季は雪の影響でアクセスが制限されることもあるため、事前に確認しておくと安心です。
第5章 周辺のグルメ・観光スポット
阿寒湖周辺は、グルメと観光の宝庫でもあります。
- 【アイヌ料理店・ポロンノ】:伝統のオハウや鮭のチタタプが絶品
- 【ボッケ遊歩道】:温泉噴気孔を歩いて楽しむ自然観察路
- 【阿寒湖温泉街】:足湯や土産物屋が並ぶ散策に最適なエリア
- 【阿寒湖エコミュージアムセンター】:アイヌ文化と自然を同時に学べる学習施設
また、四季を楽しめる自然アクティビティも豊富です。夏はカヌーや森林ウォーク、秋は紅葉狩り、冬はスノーシューや氷上釣り、春には野草観察など、年間を通じて多様な楽しみ方があります。文化体験だけでなく、自然とのふれあいも満喫できる点が、阿寒湖の大きな魅力です。
アイヌの食文化もぜひ体験しておきたい


アイヌの汁料理“オハウ”(左)と阿寒湖アイヌコタンにあるアイヌ料理店“ポロンノ”
第6章 まとめ~アイヌ文化を「住むことで知る」体験~
チセに泊まるということは、単なる宿泊体験ではありません。それは、自然と共にある暮らし、家族との繋がり、そして神と人との距離を感じる“文化の体験”そのものです。
現代の便利さから一歩引いた場所で、時間の流れをゆっくりと感じながら、自分の中にある「文化の感性」を呼び覚ます。そんな体験を求める方に、チセ宿泊はぜひおすすめしたい特別な旅です。
北海道・道東の大自然の中で、暮らすように泊まる旅。アイヌの知恵と美しさに触れ、あなたの旅の記憶に深く残る、唯一無二の体験となることでしょう。
旅は土地を巡るだけでなく、人と文化に出会うこと——チセに泊まることで、あなた自身の「旅の意味」が少し変わるかもしれません。